幻の魚と呼ばれる「リュウグウノツカイ」や新種の深海魚「ヨコヅナイワシ」など、遭遇することが極めてまれな深海魚が発見され話題となっています。
深海を主な生息地とする魚を深海魚と呼びますが、そもそも「深海」について知ってる人はどれほどいるでしょうか?
今回は自称「深海オタク」の私が、謎多き未知の領域「深海」についてご紹介したいと思います。
【著者プロフィール】
・大学で海洋工学専攻
・仕事で深海に行った経験あり
・深海専門ショップnautilus運営中
深海の定義について
深海というとその名の通り、水深が深い場所でしょ?というイメージがあると思いますが、一般的に水深200m以下の領域が深海と定義されています。
水深200mというのは普通の一般人であれば生身では絶対に到達できない深さです。なぜなら水圧によって空気を含んだ肺が押しつぶされるからです。
深海の水圧のすごさ
よく深海の水圧をすごさを表現するのに写真のようなカップヌードルの容器が使われます。
カップヌードルの容器を深海に沈めると、水圧によって発泡スチロール内の空気が押しつぶされ、写真のように縮んでしまいます。
ちなみに、スキューバダイビングのギネス記録は、エジプト軍特殊部隊の男性(当時41歳)が2014年に記録した332.35m。
なんと、このチャレンジのために4年のトレーニングを要したとのこと。
ダイビングのプロが数年の訓練を経てやっと到達できるほど到達が困難な場所が深海です。
このように、生身で行くのは常人にはまず不可能であり、通常は深海探査船のような深海の高水圧に耐えられる特殊な船に乗っていくことになります。
深海探査船についてはまた別の記事で紹介したいと思います。
深海は暗くて冷たい過酷な環境
深海は水圧がすごいということは分かって頂けたと思いますが、その環境はどうなっているのでしょうか?
深海は視覚に頼るのも難しい暗黒の世界
水深が深くなるほど海面から差し込む光は失われるので、水深200mの深海はほぼ真っ暗な環境です。
そのため、餌を探すためにわずかな光を吸収するのに目が巨大化した魚が多かったりします。
深海魚がユニークな姿をしているのは、過酷な環境に適応していった結果ですね
それが水深1000mともなるとまさに暗黒の世界なので、視覚の機能を放棄して目が退化した生物が多かったりします。
では超深海に生息する生物は「視覚」に頼らずどうやって餌を探すのでしょうか?
それは「嗅覚」です。
深海魚の調査にあたって生き物をおびき寄せる場合は、餌(サバなど)に敢えて傷をつけて匂いを出しやすくする場合もあります。
その匂いにつられて深海魚や深海生物たちが群がってくるイメージです。
深海にも海流(潮の流れ)があるので、餌の匂いが流れる海流の下流側から深海魚たちが集まってきたりしますよ
深海は冷蔵庫並みの冷たさ
浅い海の水温は季節や海域によって違いはあるものの、10~20℃とされています。
そこから水深が深くなるほど水温は下がり、水深1000mぐらいで2~4℃になると言われています。
サウナの横にある水風呂がだいたい17℃前後と言われるので、深海の水温は人間が生身で耐えられるものではないですね。
なぜ海面付近より深海の方が冷たくなるのでしょうか?
例えば部屋で空調を効かせた時を想像してください。温かい空気は上に冷たい空気は下に留まりますよね?
それと同じで太陽光によって温められた海水は上に、一方で冷たい海水は下に留まります。
ちなみに、冷たい海水が下に行くということは温かい海水より比重が重いこと意味しますが、それが深海の高水圧と関係していると言われています。
安定した深海の環境に変化が訪れている?
深海は暗くて冷たい過酷な環境とご理解いただけたと思いますが、ある意味で非常に安定した環境と言えます。
なぜなら人間の営みの影響を受けづらいからです。
例えばここ数百年で貿易や漁業が盛んとなり、船舶の往来が急激に増加しました。
浅い海にいる海洋生物達は船の騒音や水質汚染、漁具の海洋投棄の影響をもろに受けてきました。
最近だと放置された漁網に絡まってしまった海洋生物の動画をYouTubeでよく見ます
しかし、深海魚や深海生物達にとっては上で起きていることはなんのその!これまで通り生活していればOKでした。
古代から姿形を変えていない生物達(シーラカンスやラブカ)が多いのもそれが理由だと思います。
しかし、これまで安定していた深海の環境に変化をもたらす問題が発生しています。
温暖化による深海水温の上昇
アメリカの研究チームが1990~2000年代にかけて世界の深海水温が上昇傾向にあり、海面上昇に寄与しているとの調査結果を明らかにしました。
温室効果ガスによる地球上の熱エネルギー蓄積分のうち80%以上が海洋に吸収され、その過程で海水温が上昇するとされるが、過去20年の深海のデータを分析した結果、海が吸収する熱の16%が深海に蓄積されていることが判明した。
国立環境研究所
水温の変化は深海の生態系へ大きな影響を与えると考えられます
海洋プラスチックごみ問題
不法投棄や漁具など海洋に放出されるプラスチックは分解されません。海洋プラスチックごみ問題は深海にも影響を及ぼします。
実際、2020年4月に英ニューカッスル大の研究グループは、マリアナ海溝の水深6千メートルを超える深海で見つかった新種の甲殻類の体内に、プラスチックの微粒子「マイクロプラスチック」が含まれていたことを明らかにしています。
プラスチックごみがこれほど遠い深海にも影響を与えているとは・・・
まとめ
深海の定義や環境、深海が抱える問題について紹介してきました。
多様な生態系が存在する深海ですが、その過酷な環境から調査が難しく未知の領域であり、頻繁に新種も見つかるなど、まだまだ謎が多い領域だと思います。
また、遠い存在に見えて温暖化やプラスチックごみなど、意外にも人間の営みと密接に関わっていることがご理解頂けたと思います。
世界的に今「宇宙ブーム」が来ていますが、いつかその対極にある「深海ブーム」が来ることを期待しています。
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